ぶつかり合う拳が轟音を揚げ、響き渡る。
ひとりは復讐する者。
その名はネメシス。
ひとりは闘争する者。
その名はパイレート怪人。
二人は相容れない――この戦いは当然、避けられない。
それは、命の削り合い。
攻めてくるパンチを内側から裏拳で叩き、軌道を逸らしながら、ストレートで白き装甲に当たる。
機を逃さず、左拳はねじ込むように、腰を捻る同時に殴りつける。
火花と破片が宙を舞う。
同じ材質ならダメージは通る。
ネメシスブレードにパイレートナックルが削られるように。
パイレートナックルにネメシスの鎧が砕かれるように。
「ごふっ!!!」
「がぁ!!!!」
故に、殴り合ってる二人は、文字通り命を削り合っている。
大気が震える。
かすっただけでも常人を斃せる拳は次々と白き戦士に浴びせ続ける。
だが、ネメシスはそれを耐え、拳をパイレート怪人に叩き込み、その連撃を強引に止めた。
格闘技を鍛えていたパイレート怪人にとって、それはあまりにも単純な一撃だった。
ルーキーでも軌道を捉えられる、単純な一撃だった。
「おおおおおおおおおおおお!!!!!!」
それでも、パイレート怪人は受け止めきれなかった。
鍛えた上に改造された肉体がそのパワーに押されそうになった。
――拳が、重い。
――拳に乗せた思いは、重い。
(そうこなくっちゃなぁ!)
明らかに推測されたスベック以上だった。
撃たれた処が、まるで炎に焼かれたみたいに熱い。
それが、パイレート怪人を滾らせた。
拳が迫ってくる。
それでも、パイレート怪人は怯むことなく、真正面から迎え撃つことにした。
腕を上げ、フックをブロック。
チョップをネメシスの腕に当て、ストレートをはたき落とす。
それだけで、ネメシスの攻撃が止まった。
パイレート怪人は距離を詰めた。
リングで何千回もやった素早いステップで間合いを潜り込み、一番馴染んだコンボでネメシスを殴りつけた。
「せやぁ!!!!」
ジャブ、レバーブロー、そしてアッパーカット。
彼がジムに優勝をもたらした必勝コンボだ。
手応えはあった。
相手の軋みすら感じた。
が。
ネメシスは、倒れない。
「オラァ!!!!!」
しこたま殴られたにも関わらず、白き戦士はパンチを打ち込んでくる。
裏拳で逸らそうとした瞬間、パイレート怪人は驚いた――叩いてもそれを逸らさないという事実に。
(やべぇ、避けら――)
打撃音が鈍く響く。
「ごぼあああああ!!!!!」
勢いを逃し、パイレート怪人は叫んだ。
この戦いで初めて、彼は近接攻撃を防げなかった。
そこからは拳の嵐だった。
距離を迫り、防御を崩し、目にも留まらぬ速さで、ネメシスの拳が撃ち出される。
連撃はパイレート怪人の体に叩きこまれ、火花を咲かせる。
(こいつ・・・強くなってやがる!?)
無駄が多い、振りが大きい、踏み込みが甘い。
ネメシスのそれは素人に毛が生えた程度だった。
だが今は違う。
無駄が洗練され、より鋭く。
振りが小さくなり、より疾く。
踏み込みが速くなり、より強く。
戦いの中で磨かれた闘志が、彼を、ネメシスを進化させた。
――パイレート怪人に引けを取らないぐらい、強く。
上がり続けるネメシスのパワー。
それはパイレート怪人が一番理解できないことだ。
(なぜだ!?なぜだなぜだなぜだ!?)
技術の差がなくなりつつある今、パワーの差がもろに出てしまう。
達人と言われるテクニックは、ねじ伏せられた。
体重を乗せたパンチングは、弾き飛ばされた。
精巧なブロッキングは、容易く砕かれた。
即ち、凌げなくなる。
咄嗟に腕をクロスし、パイレート怪人は正拳突きにぶっ飛ばされそうになった。
手を震わせ、内蔵を揺らし、攻撃を受けたアーマーは罅が入った。
全身が悲鳴を上げるほど、彼は圧倒される。
(ふざけるな!この裏切り者に――!)
負けたくない。
そう思い、パイレート怪人はとっておきの技使うと決めた。
リスクなど知ったことか。
彼は勝ちたい。
ただそれだけだ。
「パワー集中!!!!」
筋肉に代わったケプラーアクチュエータが唸り始める。
血管に代わったバイオチューブが暴れ出す。
血液とソリッドエナジーが沸騰する。
「パイレートブローニング ――」
「ライダー ――」
パイレートナックルは赫くなり、禍々しい光を纏う。
相対するように、ネメシスの拳に碧き稲妻が迸る。
一瞬の無言。
「――ファイアー!!!!」
「――パンチ!!」
雄叫びを、同時に上げた。
閃光と爆風が咆哮し、衝撃が戦場を揺るがし、赤と碧のパワーがぶつかり合う。
そして、勝つのは――
(おわり)