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伊藤先生作『寿司屋の後藤』2貫目で存在を判明した野明の先夫視点、野明との新婚期間にて。
New OVA最終話の遊馬と野明の釜石名菓に関する会話をモチーフにしたあす→←のあです。
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『正解』
妻が床に座って、結婚式の時にもらった祝いの品である鏡を眉間にしわを寄せながら眺めている。その鏡はひび割れていて、妻がそれのギフトボックスを見ては、ちらりとこちらの方向にも目線を送ってくる。
――東京から帰郷以来、私と縁を結んだ妻は、精神的な面ではごく僅かだが、細微な欠落が見られるようになった。学生時代では誰よりも元気いっぱいで心身ともに健全な妻が、もっともこの言い方には無縁なはずだが、私はある種の確信を持っている。日常生活での些細な事の積み重ねからできたその確信に対し、私はなかなか、目を背けないでいる。
新聞を読む姿勢を変えずに妻のその目線を受け止めたが、項の身の毛がよだつほど敏感になっていた。
――もう意識が無意識のうちに、それに対する確信の実践を始めていた。
「どうしよう……あなた」。
暫くためらった妻は、私の注意を引くように話しかけてきた。
「まだ覚えてるの?あたしたちの式の時に、木山先輩にもらったこの装飾品の鏡。さっき掃除しようと思ってその下のものを取り出そうとしたら、鏡を地面に落として割ってしまった。これじゃ・・・もう使えないよね」
私は目の前の新聞を少し下げ、妻のほうに振り返った。戸惑っている妻がそこにいたが、何に困惑しているのかは、恐らく彼女自身にもはっきり分かっていないだろうと思った。
――さっきのあれは「不正解」だったのか。学生時代の妻なら、きっと・・・。
「どうしたものかね」私はなるべく優しく彼女に言った。
全く予想もしなかった返事かのように、妻はぱっと私の顔を見上げては、またすぐ俯いた。
――これもやはり、「不正解」のようだ。
「せっかく木山先輩から頂いたものなのに…」
「そうだな。」
――彼女は「正解」に慣れている。以前の習慣は「正解」になっていたのだ。処女の身で私と枕を共にした彼女だが、東京にいた頃、きっといついかなる時にも彼女に「正解」を出し続けてくれる男性が、いたに違いない。その男性はきっと、ずっと妻のことを見守っていて、理解していて・・・そして妻の代わりにさまざまの選択肢を選び、いざなる時に妻の背中押してくれていた。きっとそこにそういう存在がいたに違いない。
「でも君も言ったよね、もう使えないって」
「それは言ったけど・・・」
「置くスペースもなければ、もう割れて使えなくなった以上、捨てるほかないだろう?」
妻は落ち着きを取り戻したように、顔をあげ、アーモンド状の綺麗で大きな目で私を見た。
――これはもしかしたら、「正解」なのか。
「じゃあ、捨てるよ?」
――披露宴で妻の元同僚として参加した、あの、妻と私と近い年の男か?
「おう。」
――体の調子がよくなく、酒で頭痛がしたと言って、メインディッシュも待たずに披露宴を早々に去った、あの男か。
妻はその割れた鏡をギフトボックスごと手に取り、ゴミ箱の前まで行き、それを手放した。ギフトボックスがゴミ箱の底に転がったのを見て、妻は私の方へと振り返り、少しうれしそうな表情を見せた。
――特車隊で妻と同じ機体を担当したと言われ、
「捨てた。」妻は私のほうを見て、まるで私から肯定の言葉が来るのを待っているかのように。
――操縦担当である妻の指揮者として任命された、かの篠原重工の跡継ぎか?
「よし。」試しに妻に微笑んで頷く。それを聞いて妻もすっかり安心したように、私に笑って見せた。
――今度は「正解」のようだ。
「野明、こっち来て。」
と言いながらも、私も妻のほうに歩み寄った。彼女の学生時代からずっと変わらない細い体を、両腕でしっかりと自分の体に収まるよう、抱きしめた。
「どうしたの、急に?」妻は少し戸惑っている。しかし私にとって彼女のこんな戸惑がまさに、心地よいものだ。さらに力を入れてぎゅーと抱きしめてみる。
「いや、ただ、野明のことが好きだなって思って」
こう吐くと、腕の中の妻の顔の温度が急上昇することは、見なくても分かった。抱きしめられたまま、妻は恥ずかしさのあまり、思いつく言葉もないようで、とうとう小さい声で「ばか!」との一言と同時に、拳で私の肩を軽く叩いてきた。私は微笑んで下を向き、並の日本人より幾らか色素が薄く、寝癖がついている妻のショートヘアにキスを落とした。
――「こういうことなら、私こそ正解のようだ。」
New OVA最終話の遊馬と野明の釜石名菓に関する会話をモチーフにしたあす→←のあです。
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『正解』
妻が床に座って、結婚式の時にもらった祝いの品である鏡を眉間にしわを寄せながら眺めている。その鏡はひび割れていて、妻がそれのギフトボックスを見ては、ちらりとこちらの方向にも目線を送ってくる。
――東京から帰郷以来、私と縁を結んだ妻は、精神的な面ではごく僅かだが、細微な欠落が見られるようになった。学生時代では誰よりも元気いっぱいで心身ともに健全な妻が、もっともこの言い方には無縁なはずだが、私はある種の確信を持っている。日常生活での些細な事の積み重ねからできたその確信に対し、私はなかなか、目を背けないでいる。
新聞を読む姿勢を変えずに妻のその目線を受け止めたが、項の身の毛がよだつほど敏感になっていた。
――もう意識が無意識のうちに、それに対する確信の実践を始めていた。
「どうしよう……あなた」。
暫くためらった妻は、私の注意を引くように話しかけてきた。
「まだ覚えてるの?あたしたちの式の時に、木山先輩にもらったこの装飾品の鏡。さっき掃除しようと思ってその下のものを取り出そうとしたら、鏡を地面に落として割ってしまった。これじゃ・・・もう使えないよね」
私は目の前の新聞を少し下げ、妻のほうに振り返った。戸惑っている妻がそこにいたが、何に困惑しているのかは、恐らく彼女自身にもはっきり分かっていないだろうと思った。
――さっきのあれは「不正解」だったのか。学生時代の妻なら、きっと・・・。
「どうしたものかね」私はなるべく優しく彼女に言った。
全く予想もしなかった返事かのように、妻はぱっと私の顔を見上げては、またすぐ俯いた。
――これもやはり、「不正解」のようだ。
「せっかく木山先輩から頂いたものなのに…」
「そうだな。」
――彼女は「正解」に慣れている。以前の習慣は「正解」になっていたのだ。処女の身で私と枕を共にした彼女だが、東京にいた頃、きっといついかなる時にも彼女に「正解」を出し続けてくれる男性が、いたに違いない。その男性はきっと、ずっと妻のことを見守っていて、理解していて・・・そして妻の代わりにさまざまの選択肢を選び、いざなる時に妻の背中押してくれていた。きっとそこにそういう存在がいたに違いない。
「でも君も言ったよね、もう使えないって」
「それは言ったけど・・・」
「置くスペースもなければ、もう割れて使えなくなった以上、捨てるほかないだろう?」
妻は落ち着きを取り戻したように、顔をあげ、アーモンド状の綺麗で大きな目で私を見た。
――これはもしかしたら、「正解」なのか。
「じゃあ、捨てるよ?」
――披露宴で妻の元同僚として参加した、あの、妻と私と近い年の男か?
「おう。」
――体の調子がよくなく、酒で頭痛がしたと言って、メインディッシュも待たずに披露宴を早々に去った、あの男か。
妻はその割れた鏡をギフトボックスごと手に取り、ゴミ箱の前まで行き、それを手放した。ギフトボックスがゴミ箱の底に転がったのを見て、妻は私の方へと振り返り、少しうれしそうな表情を見せた。
――特車隊で妻と同じ機体を担当したと言われ、
「捨てた。」妻は私のほうを見て、まるで私から肯定の言葉が来るのを待っているかのように。
――操縦担当である妻の指揮者として任命された、かの篠原重工の跡継ぎか?
「よし。」試しに妻に微笑んで頷く。それを聞いて妻もすっかり安心したように、私に笑って見せた。
――今度は「正解」のようだ。
「野明、こっち来て。」
と言いながらも、私も妻のほうに歩み寄った。彼女の学生時代からずっと変わらない細い体を、両腕でしっかりと自分の体に収まるよう、抱きしめた。
「どうしたの、急に?」妻は少し戸惑っている。しかし私にとって彼女のこんな戸惑がまさに、心地よいものだ。さらに力を入れてぎゅーと抱きしめてみる。
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